一昨年は成人式が豪雪で散々で、
去年は去年で、
聖バレンタインデーが
途轍もない大雪に見舞われた東京であり。

　「今年はどうなんだろうねぇ。」

　「そうそう毎年
　　あそこまで降るもんか。」

北のほうでは
それこそ例年と変わらない
豪雪の冬が今年も訪のうているけれど、
都心がそうそう雪景色に埋もれるなんて
例がない。
というか、
豪雨豪雪には叩かれ弱い都心なので、
降ってもらっては困るというもの。

　「受験なんかは
　　これから本番だしな。」

　「そうそう。」

交通機関が遅れたりした日にゃあ
どれほど大学側が
対策を取ってくれても緊張は倍増しとなり、
本気の実力が
出し切れるかどうか…という心配が

　「…沸くかね、あいつら。」

　「どうスっかね。」

まあ、どっちも該当学年でなし、
周りが先に気に病んでどうすんですかと。
保温機能の高い、
配達用バゲージに詰めて来た
特製ピザを出しつつ、
二人を親戚にする
中間地点におわす坊やと、
そんな彼が気にしてやまない
某剣道青年の話にしっかり乗ったのが
ご近所の家具センターのフードコートの一角、
小じゃれたイートインに
店を構えておいでの金髪のシェフ殿ならば、

　「そろそろ厳寒期だから
　　ピンと来たもんか、
　　恵方巻きや節分関係の店頭販売、
　　今年はぜっていやんねぇと
　　先に言って来たんだよ、ルフィの奴。」

看板娘なのに
今更そんな我儘なこと言い出しおってと、
突っ込みどころ満載な
お言いようをするのは、
こちら『レッドクリフ』の店長さんで。

　「ゾロの奴も
　　今年は寒稽古もないって言ってたから、
　　こりゃあ問題なく
　　組ませられっかなと踏んでたんだが。」

　「撒き餌本人へも、
　　自分から先に
　　“乗せられんな”とか
　　言ってそうですね、そりゃ。」

撒き餌というより おとりの方かな？と
自分でそんな風に訂正しつつ、
これも持って来ていた保温ジャーから、
甘さ控えめのコーヒーを
マグカップへとそそいで差し上げ。
ホントは配達なんてやってないんですがねと、
ピザとコーヒーのセットを
供するお兄さんにしても、

　「ま、毎度毎度
　　寒空に立たせるのは
　　可哀想じゃないっスか。」

クリスマスや歳末の売り出し時期も、
何だかだ言って
駆り出したって聞いてますしと、
懐かれているお兄さんがつつけば、

　「う…。だが、無理強いは…。」

　「ホントにしてませんか？」

嘘ついても無駄ですよ、
ウチのじじぃも
ルフィは溺愛してますから、
こんなして苛められてるってのが
伝われば、

　「伝われば？」

　「あのうるさいのが
　　説教しに来ます。」

そいつは困るなと、
いかにも苦々しい顔になり、
だがだが、
運ばれて来たピザを器用に片手で持ち上げ、
三角の縁がわを器用に畳んであむりと齧ると
一瞬“お？”と目を見張るのが、
自分の舌には嘘がつけない、
率直なお人だという証しでもあって。

　「で？
　　その当事者はどうしてるんですよ。」

　「平日だぞ、学校だよ。」

店長室のデスクの上、
卓上カレンダーをチョチョイとつつき、

　「あと２週間しかねぇんだよな、
　　２月まで。」

　「つか、可愛いお嬢さんのほうが
　　売れませんか、売り子って。」

何とかそれまでに
説き伏せたろうという
やる気満々な叔父貴様相手に、
ちょろっとだけ
坊や寄りの援護射撃をしてやれば、

　「繁華街の店頭と
　　一緒にすんじゃねぇって。」

こぉんな田舎町の、
しかも日常の生鮮品を扱ってる店だぞ？
男性客より
お母さん世代の女性が客筋のメインだから、
女子高生辺りの可愛い子ちゃんより
ベビーフェイスの坊やのほうが
受けはいいんだよと。
聞きようによっちゃあ、
結構周到なお言いようをしてから、

　「こうなったら、
　　店頭だが屋内ブースを
　　考案するしかねぇかな。」

　「プレハブでもおっ建てますか。」

建材や資材も置いてますよ、
ウチはホームセンターみたいなもんスからと。
ちゃっかり宣伝するサンジさんの周到さへ、
ビニールハウスのハウツーなら、
ウチの若い衆も心得とるわと、
妙なところで意気軒高、
言われるまでもねぇよと言い返した赤髪の店長さんで。

　“……ちゃっかりこき使いたいんだか、
　　過保護なんだか。”

後者だとしたら、
甘やかしても気づいてもらえず、
あんまり報われてはない店長なのへ。
やれやれ不器用なんだからと、
副店長が肩をすくめた、
大寒間近の昼下がりでございます。




　　　　　〜Ｆｉｎｅ〜　　15.01.18.

　　＊どっかのコンビニで肉まん頬張ってた坊やがむせてないと いんですが。（笑）
　　　いやまったく寒いの絶好調ですね。
　　　こちら、久々に家族間で風邪のリレーをしまくっとります。
　　　インフルだけは持って帰るなよが合言葉です。

めーるふぉーむvv

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